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『彗星夜襲隊 特攻拒否の異色集団』 著:渡辺洋二

特攻=飛行機なら、捨て身の体当たり攻撃について、個人的には本当に歴史の教科書に載っている程度のことしか知らないのですが、本書の主役たる「芙蓉部隊」という旧帝国海軍の陸上航空部隊は、その特攻を拒否した上で、著名な戦果を上げた部隊としてその筋では有名なようです。

芙蓉部隊の指揮官たる美濃部少佐は、南方での撤退戦の中で「夜襲」により特攻に頼らずに戦果を挙げる方法を思いつきます。何度も何度も部隊の編成に挑戦しては失敗し、結局まともに部隊を組織できたのは防衛線が日本近海にまで後退した大戦末期、航空燃料も底をつき(日本が太平洋戦争末期にいかに窮乏したのかは「海上護衛戦 著:大井篤」を是非お読みください)ろくに訓練もできないような状況でした。それでも美濃部少佐は創意工夫で粘り強く戦い、大戦末期の、日本国内の制空権をほぼ奪われたような状況で著名な戦果を挙げます。ちなみに、太平洋戦争末期に日本がいかに窮乏したのかは、『海上護衛戦 著:大井篤』をお読みください(本ブログにおけるレビュー)。

部隊の主要な使用機材は艦上爆撃機の「彗星」特に、ドイツが設計した水冷エンジンを搭載した彗星12型と呼ばれる飛行機だったそうです。高速で高い性能は出たのですが、なにせ構造が複雑で整備が大変。そのうえ、資源がなかったり、製造技術が未熟だったりで本家のエンジンよりも性能がダウンという代物。機械の構造以外にも、零戦などを含めた日本の航空機は空冷星形エンジンだったことも、整備を難しくしていたようです(要するに整備員が慣れていない)。これを美濃部少佐は、整備員を多数そろえ、メーカーから技術者を呼んだり、整備員をメーカーに送ったりして技術を高め、徹底的に整備を施すことで、稼働率を高めました。それでも、出撃した機の半分が故障で途中で引き返してくるみたいな事態が結構起こっていて、この時代の兵器ってのは結構デリケートだったんだなと思いました。というか、現代の日本の自動車などが高信頼性過ぎるのかもしれませんが。

「特攻を拒否」し、それを補うために「夜襲に特化する。」「燃料窮乏下でも搭乗員の訓練に創意工夫を尽くす。」「故障の多い機材を整備員の充実で補う。」など(詳細については本書を読んでください)勝つために徹底的な工夫を行った美濃部少佐ですが、それらもあくまで「特攻よりも勝算があるため」であり、「どうせ命を使うなら、最大限有効に使う」という発想で行われたものだそうです。決して「大義のために命を差し出すこと」を悪としたつもりはなく、特攻で勝てるならそれを選ぶ、とのことでした。フィクションには時々出てくるタイプの指揮官ですが,その元ネタなのかな?とも思ったり。

集団の存亡のために個人の権利や命を使う、という考え方が、状況によっては成立しうることについて、理屈の上では私も理解はできます。しかし集団の未来を担う若者の命を使い減らすこと前提で作戦を立案するというのは、損得勘定だけで考えても理解不能です。マキャベリの君主論や孫子の兵法はこの時代にも日本語訳で読めたはずで、戦争はあくまで「手段」であり、「目的」ではないと言うことくらい分かりそうな物ですが…。まぁ特攻批判は本書でも少しは出てきますが、これは本書の感想とはあまり関係がないですね…。