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『ほうかごのロケッティア – School escape velocity』

個人的には超科学部モノとでも呼べるジャンルがあると思っており、例えば女子高生が自律制御型戦闘機を修復して飛ばしてしまう『ピクシー・ワークス』のように、学生が、現実にはあり得ないような高度な機械などを作ったり修理したりしてしまう作品である。ライトノベル界のロボコンとでもいえばいいだろうか?本作もそれに繋がる一作である。

副題がSchool Escape Velocityとあるように、ガガガ文庫お得意のスクールカーストもの、中学校や高校の教室の閉塞感をぶっ飛ばす象徴が、ロケットなのである。いじめや少女売春(いわゆる援助交際ね)などで学校にいられなくなったすねに傷持つ学生たちが集まる南の島(明らかに種子島モチーフ)の私立高校で、過去に同年代のアイドル歌手「クドリャフカ」を再起不能に追い込んでしまった主人公「褐葉貴人」は、理事長の娘、「翠」の手足となって、進学クラスの人間関係のフィクサーをやっている。そこに貴人の過去を知るというか、クドリャフカの中の人である「久遠かぐや」が彼のクラスに転入してき、彼女の携帯電話に宿った超次元生命体を宇宙に送り届けるためにロケットを作れと命じる。話は無駄にセクシーな図書室司書(なぜ彼女が物語に絡むのかはぜひ読んで)や、島にあるもう一つの工業高校のロケット部、町工場の爺さんも巻き込んで動き出す。。というもの。

モノを作っている描写がよくできていて、著者はエンジニアの経験があるのだろうかという感じ。実際のところロケットみたいな複雑なモノを作ろうと思ったら計算ができるだけでも、プログラムが作れるだけでもダメで、実は全体を俯瞰的に見渡して、スケジュール組んで、マネジメントをする役が必要なんだけど、その辺の役割分担の描写が結構某プロジェクトXっぽい。そんなものづくりに夢中になる主人公たちを引き立たせるための、教室の閉塞感描写もなかなかのもの(実際のところあっけなく瓦解するんだけど)。途中で主人公たちは「やっちまう」わけですが、そこから再起する様も見ていて楽しい。

高校生が持つには大それた小物が出てくるのもフェチには楽しい。本作ならベスパ。『ピクシー・ワークス』とつい比較してしまうが、『ピ……』だとIWCのMark XVIスピットファイアとAKIRAの金田のバイク風の単車だろうか。

マージナル・オペレーションシリーズや艦これで大変有名になったしずまよしのり氏の最初期の挿画仕事であり、表紙の爽快感はなかなかのものである。氏のファンも是非。紙の書籍を新品を手に入れるのは難しいが、電子書籍なら今でも割と容易に手に入るので是非。