『UNIX考古学 Truth of the Legend』 著:藤田 昭人

「ギリシアは哲学を遺し、ローマは法を遺した」なんて言葉があり、ギリシア哲学やローマ法とそれらから派生した様々な知の体系は我々の社会を支える重要な礎として機能しているわけですが、本書に語られているUNIX系のOS(ここではベル研究所製のオリジナルのUNIXから派生して、様々な人によって改良され、時には一から作り直されながら発展したその類似・後継OS達を含めます)も、前掲の2つに比べて歴史は浅いながらスーパーコンピュータからスマートフォン、はたまた組み込みのマイコンまで、現代社会の特徴である情報ネットワークのありとあらゆる場所で使われており、現代社会の在り方を支える重要な要石の1つといえるでしょう。というわけで、本書はそんなUNIXがどこでどのように、誰によって生み出され、発展し、今の形になってきたのかを豊富な写真と引用を用いてひもといた歴史書です。

本書では1960年代後半くらいにアメリカAT&Tのベル研究所で始まったUNIX開発、UCBerkleyのCSRG(Computer System Research Group)が行ったBSD UNIXとARPANET、TCP/IPに関するあれこれを紹介し、商用化、クローズドソース化されて多数の派生商用UNIXが生まれ、OSの標準仕様の決定に関して各種UNIXベンダーが争っている1980年代後半にMicrosoft WindowsがコンシューマPC市場をかっさらうところで本書の主部は終わります。おまけでBSD UNIXを完全オープンソース化するというUCB CSRG最後の大仕事も語られます。Free Software運動のRechard Stallmanはちょっと出てくるくらいで、Linus TovaldsのLinuxはフルスクラッチのUNIXライクOSなので(その前身のMINIXは出てきますが)、ほぼ言及はなし。その辺はSteven Levyの『ハッカーズ』を読めばいいのでしょうかね(恥ずかしながら未読)?

最初に「現代社会の在り方を支える重要な要石の1つ」なんて書いたりしましたが、個人的には案外的外れではないのではないかと思っており、その理由としては

  1. 1. 世の中で使われているコンシューマ向けコンピュータの多くがUNIX系OS(Android、iOS、MacOS、Linuxは明確にUNIX系、WindowsもNT系はPOSIX準拠で、Windows 10ではUNIXシェルが標準付属)
  2. 2. インターネットを構成する重要技術は、最初UNIX系OSに実装されて広がり、使われた(TCP/IP×BSD、WWW×NEXTSTEP)

があります。まぁ、もしかしたら別のなにかが作られ、使われたのかもしれませんが……。とはいえ、現在に至る歴史の中で、そんなここ50年くらいの世界の「変革」が、ごく少数の人間によって始まったというのはまるでフィクションのようですが、本書によればどうやらそういうことのようです。語り口は淡々としていますが、中身は「コードギアス 反逆のルルーシュ」シリーズのような「世の中が変わっていく過程」のノンフィクション版のようなものな訳で、まぁ何というか個人的には非常に「滾り」ます。

個人的には本書はコンピュータやUNIX系OSの勉強に非常に有益だと考えています。というのも、人間ものを覚えるのには一つの物事に対して複数の記憶の経路を作るのが有益で、例えばUNIXコマンド一つとっても、歴史や設計思想を知れば覚えも良くなると思うのです。そういう意味で『UNIXという考え方』や本書をUNIXコマンドの解説書と一緒に読むのは勉強法としていいのではないでしょうか?最初は意味がないように見えるかもしれませんが、案外記憶の定着がいいかもしれません。

仕事でUNIX系OSを使う人はもちろん、コンピュータやインターネットを使う人ならば誰にとっても本書は有益だと思います。今、目の前に当たり前にある世界がどのようにして作られてきたかを知れば、目の前の景色がちょっと変わって見えてくるかもしれません。

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