『土を喰う日々』 著:水上勉

食の豊かさとは何だろうか、と考えさせられる一冊である。
この本は、幼少の頃に禅寺に預けられ精進料理の手ほどきを受けた著者が、作家として大成して信州に移住した後に一年通して山の幸と畑の幸をいかに調理して、毎日の食事をまかなうかを書いたエッセイである。さすがに(失礼!)文章がうまいおかげで、出てくる料理出てくる料理、非常に旨そうなのである。
近年、食卓の彩りは豊かになり、毎日肉に魚にと食べられるようになって久しいが、例えば一応日々肉を食べてはいるがコンビニと、ファーストフード店をローテーションしている人の食卓と(今時の仕事の忙しさを考えると結構いるのではないだろうか?)と、この作者の精進料理を比べると、どちらの食卓の方が豊かかと言われるとよくわからなくなってくる。精進料理というのは贅沢ではないが、手間がかかっている分、決して貧相なものではないのだなということを思い知らされる。まぁ、野味、滋味という言葉がよく出てくることから、わかりやすく美味いのかと言われると土臭かったり、苦かったり、渋かったり、多分そうではないのだろうけど…。
ただ、周囲に自然の少ない都会の人間には畑をやったり、山に入ったりというのは困難だし、みんながみんな山に入って山の幸をとったとしても自然のキャパシティの問題で成立しないわけで、結局のところこの本に描かれている食生活は、ほとんどあり得ない夢のようなものなのだろうなと思わされる。
『昨日何食べた?』や『高杉さんちのお弁当』、料理漫画ではないがうまそうな食べ物が出てくる『三月のライオン』のように、手作りの日々の食事を描いたものが料理漫画において一定の勢力を持っているように見える昨今だが、昭和53年初版の本にも関わらずそれらの作品の感性に通じるものがある本作は、普段料理エッセイなんか読まないオタク諸氏も案外楽しめたりするんではないだろうか?凝り性な性分が漫画アニメから自炊や料理に向けば、オタクって男女関わらずちょっとした料理人になれる気はするのだよな。

土を喰う日々―わが精進十二ヵ月 (新潮文庫) 土を喰う日々―わが精進十二ヵ月 (新潮文庫)
(1982/08/27)
水上 勉

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