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『楽園追放- Expelled From Paradise-』 監督:水島精二,脚本:虚淵玄

ディズニーは早くから3Dアニメに舵を切るなか、日本は未だに手描きアニメにこだわっており、日本のアニメというものはどうもガラパゴス化しているようです。近頃は『蒼き鋼のアルペジオ』や『シドニアの騎士』など、3Dキャラクターに演技をさせる3Dアニメが作られてきている中で本作『楽園追放- Expelled From Paradise-』は日本流の3Dアニメの実験作だそうです。

災害で環境破壊が進んだ未来の地球。全人類の98パーセントが地上と肉体を捨て、精神だけの存在となって軌道上の宇宙ステーション「ディーバ」で暮らす時代。ディーバは地上の謎のハッカー「フロンティアセッター」から不正アクセスを受ける。その調査を行っていた監察官(当然最初は精神だけの存在)「アンジェラ・バルザック」は、自らの遺伝子情報から作成した肉体に精神をロードし、搭乗型戦闘ロボット「アーハン」を駆り地上に降り立つ。現地の協力者「ディンゴ」と共に事件の核心に迫るアンジェラ、果たしてフロンティアセッターの正体と目的は?

「ガールズ&パンツァー」のグラフィニカ、プリキュア(のED映像)の東映アニメーション、『ガンダムOO」の水島精二、そして『まどか☆マギカ』の虚淵玄と、どうやって集めてきたんだという豪華スタッフで制作されている本作。そのほかにも監修に板野一郎を据え、大気圏内外を問わず高速のロボットアクションが楽しめます。主人公アンジェラの演技にも魂が入っており、まさにロボットと女の子は男の子向けエンタテインメントにおけるご飯と味噌汁というお約束を地で行く娯楽作品です。結局日本のアニメというものはそこに尽きるのかと考え出すと多少モニョモニョするところがありますが、割り切って楽しむのが吉でしょう。

本作の見所はやはり主人公のアンジェラ。ロリィ(作中ママ)巨乳?に内臓が入っているのか疑問に思えてくる腰のくびれ、キュッと引き締まった尻をハイレグTバックのレオタード風衣装に包み、モデルもかくやというハイヒールを履いてそこらを歩き回る様はセックスシンボル…というかもはや痴女です。あ、要するにセックスシンボルって人気のあるスタイリッシュ痴女のことなんだ。そしてアクションのたびに胸と尻が震えて揺れます。はっきりいってやり過ぎの感があります。声は釘宮理恵さん。理知的で勝ち気、戦闘時には闘争心をむき出しにする彼女を、あの声質でドスをきかせ演じるのはさすがです。うまいキャスティングだと思います。ディンゴを演じるは三木眞一郎さん。伊達男っぷりにハマっています。ファンの間では有名だそうですが、歌もうまい。

本作のタイトルにもある「楽園」ディーバ、そして三名の主要登場人物アンジェラ、ディンゴ、フロンティアセッターの立ち位置から浮き上がってくる「人間」というテーマ。私には本作は、伊藤計劃の『ハーモニー』に対するアンサーの一つに思えてきます。本作の目的はこれらのテーマを突き詰めることでは恐らくないわけですが、現代の価値観で事の善し悪しを論ずるでなく、ただ描くだけの本作は、ある意味王道のSFに近いのかなとも思います(別に私自身は古今東西のSF作品を網羅的に読んだわけではありませんが…)。

アニメとしてどうなのかというと、いわゆるセルアニメに寄せて作っていった作品なのは明らかですが、普段セルアニメを見慣れている身からしても割と違和感なく楽しめます。フレーム毎に見てみないと分かりませんが、セルアニメ特有の大きく絵を崩したり、動画の中抜きをしたりといったアニメの嘘を積極的に使った技法というのは、見られなかったような気がします。メカアクションなどは『エヴァ新劇』とか『コードギアス劇場版』などですでにかなりのクオリティの物が出ていますし、本作もそれに劣る物ではないと感じました。

基本的には娯楽作品であり、深く考えずに見るのが吉。登場人物の今後や、世界の行く末など、いろいろ想像を膨らませる余地もあります。『アナと雪の女王』とは別アプローチによる3Dアニメーションの可能性を体感するための作品で、日本のアニメの主だったところを見てきている人には割と抵抗感なく楽しめるのではないかと思います。解像度のいい大画面で、音響も凝った環境で観るとより楽しめるかと思います。