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『医師の一分』著:里見 清一

帯のあおり文句には、2016年の中頃に世間を騒がせた某大量殺人事件を思わせるわけですが、もちろん現役のお医者さんが書いているのでそんなことはなく、現代の医療と死生観についての辛口エッセイという感じの新書でした。元々どこかの週刊誌の連載だったようで。

そもそも生きているとはどういう状態なのか、判断力を何らかの形で失ってしまった人の自己判断を尊重するとはどういうことか、医学の専門知識のない患者本人に、説明をした上とはいえ自分の治療方針を自己決定させることはそもそもフェアなのか、災害で多数のけが人が出ているわけでもないが、深夜の救急医療の現場で複数の患者さんが重なったときにどの人から治療すべきか(所謂トリアージですね)、などといった微妙な問題に切り込んでいます。

無限に医療や介護に携わる人がいて、無限に予算があって治療を施せるならそれでいいんでしょうが、今後の日本は医療や介護のお世話になる側ばかりが爆発的に増えていくような状況になるわけで、死んでいく人のお守りばかりしても国は沈むばかりです。命は平等でありそれぞれ尊重されなくてはならないが、とはいえ現実的に目の前に溢れる救うべき人を資源の制約の問題から選別しなくてはならない、となったときにどうするべきなのかというのは難しい課題でしょう。自分は医療に携わる人間ではないし、あるとすれば身内の介護くらいのものでしょうが、本当に気が重いです。自分自身も最終的には老いて衰えて死ぬわけで、できるだけその時の若い人に迷惑をかけないようにしたいわけですが、人生自分の思い通りにならないの筆頭ですからねぇ、老病死の問題は。

ということで、自分の人生に訪れるであろう老病死について思いを馳せるには適当な一冊かもしれません。