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『虚無の信仰 西欧はなぜ仏教を怖れたか』 著:ロジェ・ポル・ドロワ 訳:島田裕巳、田桐正彦

要約すると、19世紀のヨーロッパにおいて仏教が「虚無の信仰」として誤解され、怖れられていたという史実について、その状況と経緯について書いた本です。誤解が解けて受けいられていくプロセスについても書かれています。

細かい議論を枝落としして要約すると、どうも「仏教=虚無の信仰」説は、科学による自然の原理の解明と、哲学の思索の結果たどり着いてしまった「神の不在」「道徳と真理の物別れ」と、仏教が西洋社会に紹介されたタイミングが一致したことによって生じたもののようです。要するに仏教それ自体の性質やあり方とは関係なく、西洋が「神の不在」によって精神的な基盤を喪失しているところにたまたまそれっぽいものが入ってきてしまったに過ぎない、ということのようです。「悟りを開く」とか「無我の境地」といったものが、「虚無」と結びついてしまったようです。このあとヨーロッパ人の非ヨーロッパ人に対する人種的優越みたいな形で人種差別に結びついてみたり、後世の人間から言わせていただくと何言ってんだこの人たち状態です。

ただ、異文化の理解という問題に一般化すると、この本を読んでいる日本人の僕が「虚無の信仰」の深刻さとか、「神の不在」がヨーロッパ人のアイデンティティに与えた破壊的な影響の深刻さを正しく理解することも、同じく難しいのだろうなと思います。読んではいるけど、「虚無の信仰」の「虚無」の深刻さも、僕らはおそらく分かっていない。当時の人の「マジさ」が理解できないのと同様、この本が書かれるに至ったのであろう現代ヨーロッパの平均的なアジア理解のレベルも分からないだろうと思います。

このように、異文化や異なる宗教を理解することの難しさを疑似体験させてくれる一冊です。おそらく専門書に近い本だと思われるので、なかなか読むのに苦労しますが、正直最初と最後だけ初学者というか、門外漢には十分だと思いました。