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『虜人日記』著:小松真一

1944年からアルコール生産のためにマレーシアに赴いた著者が戦地で綴った日記で、後退する戦線の後ろで空襲におびえながら各地のアルコール工場を巡って仕事をする話、いよいよ現地の日本軍が戦争の能力を喪失し、ジャングルの中に逃げ込んで半死半生で1945年8月14日の敗戦を迎えるまでの話。戦後米軍の捕虜となり、捕虜収容所の中で生活する中で見た人間模様、の3つから構成されている。復員の際に戦友の骨壺に入れて持ち帰られたそうで、著者が亡くなるまで銀行の貸金庫に保管され、ご遺族が社会的意義を感じて活字化、出版されたという経緯を持つそうである。

全体的に読みやすく、特に334ページに記載されている「日本の敗因」が非常に的確。何せ当時の実感で、第二次世界大戦の太平洋戦線で実際に負けた人が色々と考えたことなわけである。限りなく現場に近い体験から人間としての極限状態(なにせ人肉食が行われるくらい人倫が崩壊していた)においても失われなかった明晰な知性で見いだした敗因なわけで、これ以上に的確な物を探すのは難しいだろう。

極めて残念なことは、平均的な日本人や日本人の作る組織に、本書に示されているような弱点が脈々と生き続けているということだろう。日本人のエートス(最近覚えた言葉)と言ってしまえば簡単でしかし悲しいが、まずは自分と自分の所属する組織から、少しでも弱点を克服できるように頑張っていくことくらいしかできないだろう。一生勉強である。