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『これからの「正義」の話をしよう』著:マイケル・サンデル

言わずと知れたベストセラー.iPhoneアプリの電子書籍版で読了.電子書籍で本を一冊読み尽くしてみた感想はいずれ.
まずは第一感として,これは自分にとって,政治学や政治哲学についての「ソフィーの世界」になりそうだなぁという印象を抱きました.身近な例を引きながら,思想の流れに一つ筋を通しているのは,これから自分で勉強していく上で非常に役に立ちそうな予感がします.政治哲学の入門書としてはとても良くできているのではないでしょうか?
では,内容について少し触れていきたいと思います.まず第一に,この本に「正義の断定」を期待するのはおそらく間違っているのではないかと思います.なぜなら,彼のコミュニタリアンとしての主張自体も,彼が本書の中で論破してきた思想家たちの主張同様に,現在か将来の思想家によって論破されうるものだからです.彼がこの本の中で本当に主張したいことは,「正義とは何か」について学び続け,考え続け,議論を続けるという「メタ正義」なんではないかと思います.このことはおそらくこの本の内容が,ディスカッションを主体とする講義に由来しているということからも読み取れるのではないでしょうか.
この「メタ正義」というのは非常に自分の考え方に馴染むのだけれども,実際にこれを社会の中に実現するのは非常に困難なんではないかと思います.現実問題として,ハーバード大学という超エリート校に通うエリートが,大量の事前学習と綿密な予備的ディスカッションを経てやっと,実現されているものなのだから.ぶっちゃけ面倒くさすぎる.ただし,この考え方が民主主義と組み合わされたときの可能性の大きさは,本書の中で主張されているように困難な道のりの先を目指すに値する気がします.「正義」とは,ただの自分勝手な偏見を主張するために巷でやたらに振りまわされるほど,軽いものではないのです,きっと.
本書の主張とは別に読んでいて思ったのですが,最初から「メタ正義」との組み合わせの仕方が考えられていたのだとすると,民主主義を発明した思想家って本当に偉大ですよね.ミラクルな知的発明だと思います.そして,現在の日本社会が民主主義を使いこなせていない,というどこかの誰かの主張にも納得できる気がします.
コミュニタリアンとか,リバタリアンとか,正義を語る言葉を世間に広めただけでも,この本のベストセラーにはとても価値がある気がします.講義のWeb公開,本書のベストセラーまでふまえた上であとがきを読むと,現実的な理想主義者としての著者の手腕の巧みさと一貫性には,脱帽せざるを得ません.