『男の家政学 なぜ<女の家政>になったか』著:飯塚信雄

家政=「家庭という組織の管理運営」は、ちょっと前までは女性の仕事という考えが一般的だったわけだが、人間の歴史を紐解けば必ずしもそうではなかった。前近代までのヨーロッパの封建的家父長制と家内制手工業中心の経済の下では、家政は男の仕事、というか男女が協力して行うものだった。本書はそんな時代の終わりに生きていたオーストリアの田舎領主、ホーベルク卿が書いた『ホーベルクの家政書』を紹介しつつ、産業革命から始まった「主婦」や「女の仕事」としての家政について考察する。

百姓、というと現在は農業従事者の蔑称のようなニュアンスで捉えられたりするが、本来は「100の仕事をこなす」という意味であったそうだ。貨幣経済や物流が未発達だったため、製糸、紡績、食糧生産から土木工事まで、実際衣食住のかなりの部分を自力でまかなっていた(賄わざるを得なかった)。「家政」や「家事労働」が現在侮られがちなのも、それに近い意味の変容という感じがする。そういう意味で言うと、現代は近代に工業化と徴兵制度によって「企業戦士」と「銃後を守る主婦」に性別役割分業された時代から揺り戻しつつ、新しい家庭の形を探す過程なのかもしれない。

家庭の管理ってやってみると案外楽しいし、昔に比べれば機械化も外注も進んでいるので、男性諸氏もやってみるといいと思う(一人暮らしだとやらざるを得ないわけだが)。『カードキャプターさくら』の桃矢お兄ちゃんや藤隆お父さんは、当たり前のようにキッチンに立つ男だったが、男から見てもカッコいい良い男だったわけで。余計なことを付け加えると、個人的には女性もぜひ「一家の大黒柱」をやってみてほしい、と思ったりする。

 

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